第一部 歴史的仮名遣の読み方

2. は行

2.1 本則

前回は「そのまま読むもの」でしたけど,今回からは違ってくるのですね。
そやね,見る機会の多い「は行」から行こか。
は行の読み方はどうするのですか?
基本的に,語頭以外の「は行」は「ワア行」で読む,これに尽きるんや。逆に,語頭の「は行」は「ハ行」のまま読むってことやね。
あ,それなら一つ知ってますよ。「おもで」は「オモデ」って読むのですよね?
その通りや。よう知ってるねー。
この前TVで,そんな言葉で始まる映画を見たのですよ。
……あんまり詳しいこと言うたら,怖い人らが来るから止めとこな。とにかく,幾つか練習しよかー。
これは結構,慣れるのに時間がかかるかもです……。
逆に,この「は行」に慣れたら,大きな山を越えたと思ってええよ。あと,語頭以外の「は行」が2文字以上続いても同じ法則や。
漢字を使って書くと,は行が結構見えなくなりますね。
確かに,漢字を普通に使ってある文章やったら,そんなに見いひんかもしれんなー。

2.2 例外

さっき,はやてちゃんが「基本的に」って言ってましたけど……
もちろん例外はある。一つは,語頭以外の「は行」を「ハ行」のまま読む場合やね。これは大半が複合語の時で,一見気づきにくくても,「は行」で始まる言葉が隠れとることがある。そんな意識が働いたら,「ワア行」にならんと,そのまま読むんや。 あと,数は少ないんやけど,複合語でもないのに,語頭以外の「は行」を「ハ行」のまま読む貴重な例もある。ただこれは,「現代仮名づかい」と同じやから,難しないよ。
これは,ちょっと気をつけてればわかりますね。
ただし,や。さっきの本則に引きずられて,語頭の「は行」を「ワア行」で読んだりもするからややこしい。これがもう一つの例外や。一番有名なんは,助詞の「は」「へ」やね。
「こんにちは」の「は」とか,「どこへ行くの?」の「へ」とかですよね?
正解正解。助詞は必ず他の言葉の後ろにひっついて出てくるから,語頭以外の「は行」に近い感覚になって,「ワア行」で読まれる様になったんやろね。あとは複合語で,こんな例があるよ。 これは私の印象やけど,人名とか地名とかに多い気がする。それに,人によっても「ワア行」になったりならんかったりするんやけど,自分で読むときは,振り仮名でもない限り,どっちで読んでもええよ。
確かに,どっちの発音も同じ位よく聞く気がします。
まー,そんなに数は多ないし,「こんな例外もあるんや」位に思っとってくれたらええよ。あと,今回は挙げへんかったけど,「あふ」「えふ」の時はまた別で,それは次回と次々回に説明するなー。

2.3 閑談 「h」の発音

今,気づいたのですけど,語頭以外の「は行」を「ワア行」で読むってことは,「ワ」以外は,hが脱落してるってことですよね?
よう気づいたね。確かに,「おもで(omohide)」⇒[オモデ(omoide)]って風に,hが抜け落ちたとも受け取れる。
この法則って,英語に似てませんか?
確かに。今日のリインは冴えとるなー。リインの代りに例を出すと,英語で「乗り物」の意味の"vehicle"は,手元の辞書には[víːikl]と「h」を無視して発音する様に書いてあるし,また「多分」の"perhaps"も,[pəhǽps][pɹǽps]の両方の発音が載ってて,他の音に挟まれた「h」の音が消えやすいことを表しとる[福田 p.227]。語頭は"hill""harp"みたいに比較的「h」が残るみたいやけど,語頭ですら,"hour"なんかやと「h」が無視されるみたいや。(天の声: 英語でも方言によっては,"home""he"等の単語でも語頭の「h」が脱落して,[(ɦ)oːm][(ɦ)iː]の様に発音される。また英語に限らず,西欧言語で「h」が抜け落ちて発音されることは多い。)
まーとにかく,語頭以外の「h」が脱落して発音される傾向は,英語と日本語で共通やと言うてもええね。
ぜんぜん違った言語なのに,面白い繋がりがあるのですね。
まったくその通りや。これは逆に,語頭以外の「h」を抜かして発音するのは,人類にとって自然なことなんかもしれんね。(天の声: 厳密には,[h]が弱まって[ɦ]で発音される,とした方が自然である。「h」の発音についてもっと詳しく知りたい方は,[福田 pp.219-231]を参照されたい。)

2.4 纏め

色々聞いてきましたけど,原則は「語頭以外の『は行』は『ワア行』で読む」,ですね。
ほんま,今回はその一言で終りやね。あとは慣れかなー。
どうも有難うございました。次回は何を学ぶのですか?
どう致しまして。次は,さっきもちょっと言うたけど,「あう」「あふ」の読み方やね。これも本則と例外があるけど,そんなにややこしないから,できるだけ簡単に説明するなー。